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エリュシオンでささやいて
第2章 Lost Voice
 

 
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 ……なんて、意気込んだのはいいけれど、この歌声という決め手がなく、また他のところを見て探そうということで、今回のオーディションは解散となった。

 そう簡単に逸材というものは見つからないのが現状。
 
「もう六時か。よし、じゃあ直帰するか。……ホテルに」

 忘れていたあたしは竦み上がった。

「私、自宅に帰りますので! では!」

 ぺこりと頭を下げて猛ダッシュしたはずのあたしの襟首を、数歩歩いただけの早瀬がひょいと掴んで持ち上げた。

「……逃げるんじゃねぇよ」

「もう疲れたし、お風呂に入ってゆっくりと……」

 抵抗すると、後ろから耳元で囁かれた。

「風呂プレイ? ゆっくり抱かれたいって? 俺煽ってんの?」

 この低く艶やかな声にぞくぞくする。

「違います。まったく違うから、本当にもう今日は……。一昨日したばかりでしょう!?」

「毎日じゃねぇだろ? ひとに我慢させやがって」

「ま、毎日する気!? 一日にどれだけ溜め込むのよ、あんた!!」

 思わず素で叫ぶと、早瀬が笑った。
 九年前と変わらない、鋭さがなくなってあどけなく思えるような笑みに。

「やっぱ、お前……いいわ」

「あ、いらないということですね、では!」

 今度は後ろから両腕が出て羽交い締めされて、またもや逃亡失敗。

「違う、誰がいらねぇって言ってるんだよ。逆だ、こうなった責任取れって言ってるんだ」

 早瀬が体を押しつけてきて、なにか膨らんだものを、あたしのお尻に押しつけるようにして回転させた。

「――っ、ちょっと!」

 それがなにかわかったあたしは騒ぐが、早瀬がすぐに制する。

「ホテルが嫌なら、別に外でもいいけど?」

「外は駄目っ、そこで喋らないで!!」

 早瀬の甘い匂いと甘い声のダブルの攻撃に、ぶるりと身震いをしてしまう。
 
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