この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
ふぅと長い息を吐く音が聞こえて、少し掠れたような声で早瀬があたしに聞いた。
「怒ってる?」
「え?」
「……俺、なにやらかした? もう中に戻りたいか?」
哀しそうなその声に、あたしは慌てた。
「……べ、別に……いつも怒っているわけじゃないし。あたしも、酔いをさましたいから……」
早瀬にとって、あたしの無言は怒りに思えるのだろうか。
考えてみればいつも、あたしは言いたいことを言えずに、言っても無駄だと我慢して、言葉を呑み込んできた。時には泣きながら。
早瀬と前のように長く話せるようになったのは、HADESプロジェクトのボーカル選考をするようになってからだ。
そうか。
あたしはいつも、早瀬の前で怒っているか泣いているか、だった。
「じゃあ……なにか喋れよ」
「と、突然言われても……。沈黙がいやなら、あなたが喋ればいいじゃない」
可愛くないあたし。
困るんだ、懇願されるように……切なく言われたら。
「駄目だ。……今、言いたくなるから」
早瀬は苦しそうに、そう言った。
「え?」
「せめて……金曜日まで、我慢させろよ。誓いを破ってしまうのだから、せめて……その時までは、堪えさせてくれ」
……彼は一体なにを、言おうとしているんだろう。
そこまで彼が禁じているものはなんなのだろう。
「辛いなら、別に……」
そう。こんなに泣きそうな声を出すくらいなら……。
「……駄目だ。お前が誓いを破らせたんだ。……俺、女々しいけど……もうお前に嫌われたくねぇんだよ……」
涙声に、心臓が跳ね上がる。
「お前以外、抱きたいとも思わねぇのに……お前を大事にしたいのに、それがお前に伝わらないなら、言うしかねぇだろ? お前を傷つけた……〝言葉〟を使うしか……」
なにか――、
告白されている気分になってドキドキする。
まさか。
あたしは早瀬にフラれているんだから。