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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 

 ふぅと長い息を吐く音が聞こえて、少し掠れたような声で早瀬があたしに聞いた。
 
「怒ってる?」

「え?」

「……俺、なにやらかした? もう中に戻りたいか?」

 哀しそうなその声に、あたしは慌てた。

「……べ、別に……いつも怒っているわけじゃないし。あたしも、酔いをさましたいから……」

 早瀬にとって、あたしの無言は怒りに思えるのだろうか。

 考えてみればいつも、あたしは言いたいことを言えずに、言っても無駄だと我慢して、言葉を呑み込んできた。時には泣きながら。

 早瀬と前のように長く話せるようになったのは、HADESプロジェクトのボーカル選考をするようになってからだ。

 そうか。
 あたしはいつも、早瀬の前で怒っているか泣いているか、だった。
 
「じゃあ……なにか喋れよ」

「と、突然言われても……。沈黙がいやなら、あなたが喋ればいいじゃない」

 可愛くないあたし。
 困るんだ、懇願されるように……切なく言われたら。

「駄目だ。……今、言いたくなるから」

 早瀬は苦しそうに、そう言った。

「え?」

「せめて……金曜日まで、我慢させろよ。誓いを破ってしまうのだから、せめて……その時までは、堪えさせてくれ」

 ……彼は一体なにを、言おうとしているんだろう。
 そこまで彼が禁じているものはなんなのだろう。

「辛いなら、別に……」

 そう。こんなに泣きそうな声を出すくらいなら……。

「……駄目だ。お前が誓いを破らせたんだ。……俺、女々しいけど……もうお前に嫌われたくねぇんだよ……」

 涙声に、心臓が跳ね上がる。

「お前以外、抱きたいとも思わねぇのに……お前を大事にしたいのに、それがお前に伝わらないなら、言うしかねぇだろ? お前を傷つけた……〝言葉〟を使うしか……」

 なにか――、
 告白されている気分になってドキドキする。

 まさか。
 あたしは早瀬にフラれているんだから。
 
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