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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 

 どんな理由があるにしても、別の女とキスをするフリをしてでも、早瀬にとっては、あたしを拒絶する選択を選んで放置していた。あたしは、そんな程度の女だったのに、九年経って一体なにが変わるというの?

 九年経って早瀬は、皆の早瀬となり、あたしは落ちぶれたのだ。

 そう、シンデレラと王子様には、そう簡単には、舞踏会は開かれない。
 ありえないことを可能にする、魔法がなければ――。
 
 だけど、もし許されるのなら。
 もし、夢心地の今……、ありえない夢を見てもいいのなら。

 あたしは、早瀬に愛されたい。
 早瀬に、あたしの足にだけ合う、硝子の靴を持ってきて貰いたい。

 あたしだけが好きでいようと思っていた心の裏返し。

 愛されることはないのだからと、心に蓋をしていたその中身は、早瀬の特別でいたい――ただそれだけ。

 叶わぬことだから、永久に願い続けるのだろう。

 あたしは、早瀬に愛されたいのだと。
 愛されるような魔法をかけて貰いたいと。

 あたしも、女帝と同じなんだ。
 ただ、愛されるために頑張らなかっただけ。

 もしも魔法が使えて、九年前の罪悪感や贖罪ではなく、九年後のあたしを……早瀬に愛して貰えるのなら。

 心に封じてきた、早瀬との未来を……今一度信じられるのなら。

 ……どんなにあたしは、幸せだろう。

 九年間の苦しみをすべて白紙に戻して、早瀬に……あたしも好きなのだと、再会して早瀬の音楽に触れて、自分の傷がまた開くことになっても、それでもまた惹かれてしまったのだと、そう言えたのなら。

 おとぎ話のようなハッピーエンドが待ち受けていて、身も心も早瀬に愛されることが出来たら、どんなに素敵だろう。

 早瀬のことを、須王と呼べる日が来たのなら――。
 
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