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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 

「……っ」

 目からポタポタと涙が零れ、それを隠そうとしたが早瀬に見つかってしまった。

「……なんで俺は、お前を泣かせてばかりなんだろうな」

「違う、これは……」

 早瀬の手があたしの側頭部に添えられ、早瀬の胸にあたしの顔は押しつけられる形となり、繋いでいた手は解かれてあたしの背中に回る。

「どうして、泣かせてばかりで笑わせてやることが出来ねぇんだろう、俺は」

「だから、これは早瀬のせいじゃなく……」

「同じだよ。お前のすべてを守りたいのに……。なんのために俺は今まで……」

「……っ」

 ――ああ、駄目だ。

 勘違いしてしまう。
 あたしは早瀬の特別だと、思ってしまう。

「ごめん、離して」

「……嫌だ」

「離してよ」

「だから駄目だ。離したくねぇんだよ」

 強く抱きしめられ、月明りに早瀬の顔が見えた。

 悲哀に満ちたそのダークブルーの瞳に、視線を奪われて。

 闇夜に自己主張する深いその青い瞳が、揺れて……なにかを告げたそうにしていて。

「………」

「………」

 ……愛おしい、そう言われた気がした。


 馬鹿、柚。

 ありえないから。
 妄想の世界から出てきなさい。

 早瀬が、あたしを好きだとかそういう類いは忘れなさい。
 恥をかくのは、辛い思いをするのはあんたなのよ。

 九年前、早瀬に置き去りにされたあたしが叫ぶ。


「……柚……」


 その声で、あたしを惑わせないで。

 あたしはどうにかしているの。
 声までも、あたしを愛おしいと言っている気がするなんて。

「キス、していい?」

 あたしの葛藤を知らずに、早瀬は聞く。

 キスしたい。
 すれば、柚……あんたがまた傷つくよ。

 早瀬に触れたい。
 触れたら、あんたは苦しむよ?

 
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