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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 


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 その夜あたしは、帰りの遅いことを心配していた女帝を、宛がわれた一人部屋に誘って、あたしと早瀬のことを正直に話した。

 どの部屋も八畳。シングルベッドに、ウッド調のテラスに出れる大きな窓の前には、白い円卓に三つの籐の椅子が置かれているようだ。

 あたしは、女帝の向かい側の椅子に座って、話し始めた。

 九年前、既に身体の関係があったこと。
 今も、早瀬に借金のカタに性処理として抱かれていること。

 たまらなく早瀬が嫌いで、同時に同じくらいに早瀬が好きで。

 九年前の傷から今までのように逃げるのではなく、前を向くために……九年前を昇華させるために、昔に出来なかった告白をしたいと。

 早瀬とのことは、ひとに言える世間話ではない。
 なにより女帝は、早瀬を好きな立場にいるひとだ。

 だけどあたしは、女帝に黙って早瀬に告白することは出来なかった。

 酒気を帯びていたから、大胆発想に至ったのかもしれないけれど、それでもあたしは、早瀬との関係を改善したくて、あたしの中に燻っているものをなんとかしたいと、わざわざ九年前に触れる大きな決断をしたことを、女帝に聞いて貰いたかったんだ。

 素の彼女を見せてくれたから、あたしも素直の気持ちを見せたいと。
 これは決して嫌味なのではなく、重大な出来事だったから――。

 ……女帝にだけ話していたはずなのに、どのタイミングの時からだったか、あたしがミーティングルームに置きっぱなしにしていたらしいスマホを届けに、部屋を訪ねてきた裕貴くんが、あたしが大泣きしているのを見て大慌て。

 女帝が恋愛マスターの意見も聞いた方がいいとしきりに勧め、裕貴くんからも、「姐さんだけではなく、俺もウサ子の友達だろう?」と言われて、裕貴くんにも話を聞いて貰うことになった。

 女帝も裕貴くんもじっと耳を傾けてくれた。
 
 途中、昔を思い出して苦しくなって胸を掻きむしるようにして、嗚咽交じりに言葉を途切れさせてしまうあたしの頭を撫でながら、意味不明に紡いでいるだろうあたしの言葉を、辛抱強く聞いてくれた。

 ……亜貴以外に、あたしの話を聞こうとしてくれた人達だった。
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