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エリュシオンでささやいて
第2章 Lost Voice
 

「駄目駄目うるせぇな、お前拒否れる立場?」

「う……」

「ホテルが嫌なら選ばせてやる。お前の家か外か。はたまた〝アキ〟の援助取り消しか」

 悪魔が突きつけるものに、さっきとは違うぞくぞくがする。

 ……あたしに取れるのはひとつしかないじゃないか。

「……ホテル」

「良い子だ」

 髪を上げて露わになっているうなじを、熱いものに強く吸われた。

「ひっ!」

「色気のねぇ声。はは、簡単につくのな、キスマーク」

「やめてったら!!」

「……今までセックスしてきたの、俺以外に誰?」

 突然声音が恐ろしく低くなる。

「〝アキ〟も、こんなことしてたの?」

 あたしは言葉に詰まる。
 亜貴となにもなかったわけではないから。

――この世は半分が男だ。大丈夫、俺から慣れてみよう。

 あたしが、セックス以外の普通の生活で、男に対する恐怖症を隠していられるのは、亜貴の献身のおかげだから。

 天使があたしの心を救ってくれたのなら、亜貴は、条件反射に男に恐怖するあたしの身体を、鎮めてくれたのだ。

 あの頃のあたしは、幾ら精神的に元気になっても、身体は男に触れられただけでも嫌悪感で吐いてしまって、社会に適応できる状態ではなかった――。

「か、関係ないでしょ」

 亜貴とのことには、触れて欲しくない。
 嘘をつけないあたしの誤魔化しに、早瀬は詰るように言った。

「……むかつく」

「ぎゃあああ、思い切りうなじを噛むなっ!! このケダモノ!!」


 ……性処理の道具に対する所有欲を、勘違いしてはいけない。

 

 *+†+*――*+†+*


 シャワーが頭上から降り注ぐ浴室の中、手の甲を口に押し当てても漏れる、あたしの喘ぎ声。

「や、んん、んん……っ」

 濡れたシャツは中途半端にボタンが外され、ずり上げられた下着から見える乳房の柔肉に、後ろから回った大きな手が荒く揉みこむ。
 
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