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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「私はね、白黒はっきりつけたい性格なの、わかっていると思うけれど。曖昧にされればされるほど、いずれは黒から白に変わることを期待して頑張りたいタチよ。だからあんたの、フラれるかもしれないけど、自分の気持ちに決着をつけたいという気持ちもわかる」
「……ありがとう」
「でもね。言いたいということが、九年前だけに特定しているのが気になる」
「え?」
「今も早瀬さんを好きなのに、どうして今の気持ちは伝えないの?」
まっすぐの目が向けられる。
「今、あんたは彼から愛されたいとは思わないの?」
あたしは、テーブルの上にある手をきゅっと握った。
「柚。私の滑稽な姿を見ていたでしょう? 昔私はフラれていたの。それなのに、早瀬さんの気持ちが変わるようにと思って、彼に必死にアピールしていたつもりよ。仕事だって……今こそやりがい感じているけれど、仕事をやるようになったのは、早瀬さんに褒められたいという完全な私情。どんな理由があったにせよ、私は自分のしてきたことに後悔はしてないわ。私は全力でぶつかって砕けたの」
「……っ」
「九年前のこと、仮に早瀬さんから好きだったと言われたら、あんたどうするの? それで九年前のことはこれで終わったから、私達両想いだったのね……はい終わりとなれるわけ? 逆もそうよ。仮に嫌いだったと言われて、だから今でも嫌われているけど、私だけ早瀬さんを好きでいたいわ……なんて性処理の日陰の女で、自己満足の自己完結する気なの?」
「あたしは……」
あたしは、どうしたい?
「九年前の決別は大事ね。それは私もそう思う。だけど、恋って……九年前と九年後で姿を変えるわけじゃなく、九年間続いているものだと、私は思うけれど。柚が早瀬さんの気持ちに気づいたのは最近かもしれないけれど、柚は九年も早瀬さんが好きだったんだと、私は思うけれど」
あたしは、言葉を返せなかった。
憎々しく思うほどには早瀬を忘れることが出来なかった七年間。
そして二年前、嫌悪感がわくほどには……早瀬はあたしの特別だった。