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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「だから柚。九年前だけじゃなくて、今もそうなんだと早瀬さんに言ってきなよ。あんたが早瀬さんとは釣り合わないと思っているのなら尚更、フラれてもダメージは少ないはずよ? 酷いフラれ方しているんだから、怖れずぶつかってきな、柚!」
女帝はファイティングポーズを見せた。
「もう二度と、あれをすればよかった、これをすればよかった……などいう後悔だけは作らないこと。それが前に進める秘訣よ?」
「奈緒さん……」
「私からは以上。次は裕貴」
「俺はさ、柚と須王さんが九年前のことについてなにも話し合っていないことがひっかかる。柚の傷だから触れたくないのはわかるけれど、そこをなんとかしないといけないんだろう? 今に至る関係は。だからこそ、柚は勇気を振り絞って切り込もうとしているんだろうけど」
「うん……」
「だけどさ、九年前って……柚が触れたいのは、恋愛事情だけじゃないと思うんだよね、俺」
「え?」
「須王さんに事情があって柚をフったのなら、柚にわかるように説明をして貰いたいんだよ、俺は。それをなんであのひとは、謝んないのかな」
「言い訳に、なるから……って。あたしが苦しんだということには、思うところはあるみたいだけど……」
「なければ、人間じゃないから! 確かに柚も今さら九年前の言い訳をされても困るだけだろうとは思うよ? だけどさ、須王さんの言葉で柚が傷ついて引き摺っているんだ。言い訳かどうかを決めるのは、須王さんではなくて柚だと思うし、須王さんは柚を傷つけた責任として、すべてを知った柚から、九年分の恨み言を受け取るのが筋だと思うんだよな。それが本来の謝罪じゃないのかな」