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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「恨み言? 蒸し返すのも……」
「柚。その〝良い子〟は言い訳だ。柚もあのひとも、九年前を話題にすることを怖れて、逃げているだけだ。これだったら、根本的解決にはならないのわかるよね?」
あたしは、無言のまま頷いた。
「九年前の告白を言い捨てて終わりにするんじゃないぞ。昇華したいのなら、ドロドロとしたものすべて、須王さんにぶつけること。須王さんがそれを抱えきれないくらいのキャパしかないのなら、今の恋はやめた方がいい。相手が悪かっただけだ」
「………」
「柚、逃げちゃだめだ。戦うと決めたから告白しようと思ったんだろう? だったらもう一歩進んで、素の柚になれ。一番柚が納得いかないのは、どうしてあのひとがそんなことをしたのか、どうして柚を傷つけない方法を選べなかったのか、じゃないの?」
図星をさされたように、どきっとした。
「言葉で傷ついたのなら、あのひとの言葉で失った柚の時間を取り戻すべきだと思うよ。その権利が柚にはあるんだから。それが本当の意味での、〝荒療治〟だと思うけど?」
「………」
「いいか、柚。あのひとは言葉が足りない上に、格好つけだ。だけど、本当の心は、隠しきれないものだ。柚は、傷つけられるという不安から、それが見えない。俺や姐さんも見えていることを、見えない……いや、柚はわざと見ないふりをして、過去の傷から身を守っている」
あたしが見えなくて、女帝や裕貴くんに、見えているものがあるの?
「俺、あのひとにLINEで聞いてみたんだ」
〝随分とあんたの作る音楽と、あんたはギャップがあるね〟
「するとあのひとはこう答えたんだよ、柚」
〝俺にとって音楽は、音楽を教えてくれた奴そのものだ。だから汚い俺とは違い、俺が愛する音楽は、永遠に綺麗なものであり続けたい〟