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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 

 裕貴くんが苦笑して言う。

「男ってさ、女と違いそこまで繊細に出来てないのさ。煽てられればその気になるし、単純な生き物で。基本、好きか嫌いかしかないんだよ、柚」

 早瀬の音楽は。
 早瀬が愛する音楽は――。

 あたしは目を瞑った。

 横浜で即興のピアノを披露した、直近の早瀬の音楽が胸に鳴り、あたしの心臓の音と重なっていく。

「……聞いてみてもいいかな、金曜日。誰のことかって」

 見て見ぬふりをしていたというのなら、モヤモヤとしたものをはっきりさせたい。

 靄の先に、なにが隠されているのか、知りたい――。


「あははは。だったら須王さんから、こう聞かれると思うよ? 柚は誰のことだと思うかって」

 ああ、言われそう。
 早瀬はたまに、質問を質問で返すことがあるから。

「だったらあたし……答えを用意しておかないとね」

 それが正しいのか、わからないけれど。


 ふたりが笑う。


 ……金曜日、素のあたしでぶつかってみようか。

 どんなに突き落とされても、あの時以上の谷底はないと思えば、確かに怖いことはないのだ。

 九年前、好きだから辛かった。

 今も早瀬が……須王が好きだから、性処理にしないで欲しいと、今のあたしを見て欲しいと、そう言いたい。

 
 今一度、素直になれる魔法を。

 須王に伝えたい――。
 

 ……突然、ドラムの音が聞こえてスタジオにすっ飛んでいった裕貴くんと、あたしを落ち着かせて部屋から出て行った女帝。

 そしてあたしは泣き疲れて、ちょっと仮眠しようとベッドに横になったはずが、熟睡してしまった。

 髪を優しく撫でる手があったことにも気づかず。


「……裕貴と三芳に絞られたよ。不甲斐ない俺でごめんな。だけど……それを返上するから。ちゃんと言う。ちゃんと……お前だけが好きなんだと。ずっと好きだったから……音楽室に行ったんだと。音楽室でお前と笑い合えたことが、俺の幸せだったんだと。ちゃんと、言うから。

だから。たとえ、短い間でも……俺の傍で笑っていてくれないか? 俺の世界から、お前がいなくなるまでは。それまでは……俺に縛られていてくれ」


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