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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
午前七時――。
小林さんにおぶられるようにして、そのままシャワー室に運ばれたらしい早瀬が、水も滴る麗しの王子様となって戻ってくる。
見事なまでに……ぐでぐでしながら起き上がっては、生まれたての仔牛のように手をぷるぷるさせて、ソファに埋もれていた姿がまるでない。
それどころか、髪が濡れているだけで、どこから色香が出てくるのかよくわからないけれど、とにかくこの場は、妖しいピンク色に染まっていき、裕貴くんと女帝がやられてへろへろとなり、あたしはガラス戸を開けて空気の入れ換えをして言う。
「ごはん、食べましょう」
「ぶはははは。嬢ちゃんは大丈夫なのか」
「……はい」
見慣れてますとも言えないし、実はぐらぐらしてのぼせたような感じだったので、冷たい空気で火照りを冷ましていたんです……とも言えず。
「俺の嫁、なぜに俺にはいつも食わせない豪勢素材ばかりを、持たせるんだ? こんなの買う余裕があるのなら、俺の小遣いあげろー!!」
高級素材――。
小林さんの荷物は多くて、その中にとても大きなクーラーボックスがあったため、昨夜皆で蓋を開いたら、ぴかぴかの銀の鱗をした大きな鮭が一匹。
一緒に入って居た説明書らしき紙には「鮭児(けいじ)」とあった。
何でも、一万ほどの捕獲量の中に、数匹しかいない幻の鮭らしい。
……魚を持たせる奥様って凄いなと思いながらも、まだまだ奥様から持たされたという食材はたくさんあって。
南魚沼産コシヒカリ(米)、シンデレラ太秋柿、恐らく松茸と思われるキノコ、針木産新高梨……と書かれた、多分産地は日本だけれどどこのどんなものなのかまったくわからないものもたくさん現われた。
どういう食べ方がいいのか説明がなかったため、ネットで調べたところ、庶民は絶対買わない凄まじい高級さ。
1個四千円以上の柿や梨ってなに!?
鮭児なんて、十万近くなんだけれども!
……これも早瀬への貢物とは思えども、そんなものが市場に出ていて、それを買う客がいるという驚きの事実に、震え上がったあたし。
生ものは早く食べた方がいいと、昨夜のうちに……魚を捌ける小林さんにより作って貰った、鮭児のお刺身を食した。会食で食べれなかった早瀬のために、朝食からルイベ(凍ったままの刺身)を堪能。
早瀬様様だ。