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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 

「つまり、相手にはハッカーが含まれる可能性もある、ということか」

 皆が怖い顔をして唸るから、どうしてそこまで深刻な顔をしているのかわからないあたしが尋ねると、裕貴くんが教えてくれた。

「つまり、誰が死んでも、事件にならない可能性があるということだよ」

「え?」

 死ぬ?

「今はコンピュータら機械が情報を管理する時代だからね。その情報すら書き換えられてしまったら、俺達は戸籍すら消されてしまう可能性だって出てくる。ハッカーは、人間を社会から抹殺してしまえるものなんだよ」

 あたしは、ぞっとしてしまった。

「でも、警察が……」

「警察なんて、事件が起きないと動かないからね。遥(はるか)の時だって、警察は動かなかった。遙を変人扱いしたし」

「遥って?」

「あ、入院中の俺のダチ。男なんだけど。遙の姉貴が五年前に行方不明になってさ。でも事件性がないからって、探してくれなくて。あいつ身体弱かったのに、凄く探して探して……面会謝絶になるほどには、あいつの心身がボロボロになったと思う」

「そんなことがあったの……」

「うん。だから遙を勇気づける意味もあるけど、俺が有名になれば、テレビから遙の捜索も訴えられるかなって。五年前のことだけれど、時効はないと思うから」

「そうだね。見つかるといいね」

 頭の中に、行方不明となって屍体で発見された、天使が過ぎった。
 あれも事件があったことは明らかなのに、証拠がないからと……あたしの訴えは何度も却下されて、事件そのものが消えてしまった。

 だから、警察をあてにしないで、自分で動いた遙くんの気持ちはよくわかる。わかるんだけど……どうしてあたしは、自分の訴えの正当性……つまり証拠を自分で見つけようと、努力しなかったのだろう。

 どうして、交番に訴えることしか出来なかったんだろう。

 確かに怖かった。
 異常なほどに震え上がりながらも、あたしは勇気を振り絞って交番の警察官に訴えた。

 交番のひとはあたしの話を聞いてくれて、どこかに電話をかけて。

――初めまして、捜査一課の○○警部補といいます。

 背広を着た、名前はもう忘れてしまった、警部補とかいう男性がその交番にきて、それであたしの訴えをすぐに却下して。

 でもあたしは何度もその交番に行って。
 名刺をもらったはずなのに、交番に行って……。
 
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