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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 

 あたしは、皆を見渡して言った。

「これだけは約束して下さい。必ず、皆の命を優先すること。気持ちは嬉しいけれど、あたしは……あたしのために傷つくのが嫌だから。そんな事態になるのなら、あたしは迷わず自分の舌を噛みきろうと思う」

 裕貴くんが言う。

「柚、そこは一緒に生きる道を考えようよ」

 女帝が言う。

「そうよ。守ろうとして死んじゃったら、残ったひとはどうすればいいの」

 小林さんが言う。

「嬢ちゃんを生かそうとするのが、力の源になるんじゃねぇか?」


 早瀬はしばし黙ってあたしをじっと見た後、ふいと目をそらして言った。


「お前が舌噛み切ったら、俺も舌噛み切るから」


「いやいや、須王さん。そこは、柚を蘇生させようよ!!」

「そうよ、なんの解決にもならないわよ!!」

「がははははは!」


「わかりました。だったら、あたしがあなたを死なせないように……、頑張って生きようと思います」

 早瀬は――にやりと笑った。


「ああ。俺のために生きれよ?」


 なにか違うかもと思うけれど、これが精一杯。

 物騒な事態にならないで欲しいと思いながらも、それでもあたしと共に死のうと言ってくれただけで、あたしは早瀬を信じようと思ったから。

 単純極まりないあたし。
 そして皆を巻き込む無慈悲なあたし。

「あたし、死にませんから!」

 それでも、このひと達のために生きたいと思うから。
 また笑っていたいと思うから。 
 
 
「……ありがとうございます!!」


 きっとこれは魔法。
 皆の優しさがかけてくれた魔法。

 皆だって不安だろうに、笑いに包んでくれた。

 あたし、頑張る。
 絶対負けるものか。

 絶対――!!

 
 ……この時のあたしはわかっていなかった。
 この先に待ち受けるものがなにかを。

 どうして、心にひっかかったものをそのままにしていたのだろう。
 どうして、なんとかなると楽観的になっていたのだろう。

 魔の手は、こんなにも近くに忍んでいたのに――。

 
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