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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「おいこら。なにやってるんだよ」
本当に自分の頬をぐーで殴ってしまっていたら、早瀬に手首を掴まれやめさせられた。
「それは俺に殴りたいという意志の現れか?」
「いいえ。弛んだ自分への喝です」
せっかく鹿沼さんがパソコンに喝を入れてくれたのに、それを使う人間が腑抜けでどうする。
しっかり、柚!!
きりりとしなさい!!
「……まだ、俺の車に慣れねぇの?」
「へ?」
「そんなに背筋正して、どこに連れ込まれるのかと睨み付けるようにして前を見ているから。別に取って食いはしねぇから。……金曜日まで待つからさ」
「その、金曜日なんですけど……」
「なしは却下。確定」
「確定でいいんですけど……もしも。もしもの話で、思いきりあなたを怒らせてしまう事態になったら」
「なに、お前俺を怒らせたいの? アキや朝霞や裕貴や小林に、操立てるとか言い出すつもりか!?」
「ち、違いますよ。亜貴は従兄だし、朝霞さんは元上司だし、裕貴くんは弟みたいだし、小林さんはおじさんですから、そういう対象にはなりえません!」
「……。じゃあどんなのが、お前の対象なんだよ」
「は?」
早瀬はむっつりとして唇を噛みしめるようにして、フロントガラスを睨み付けている。
「あのですね、あたしはあなたみたいに、色とりどりの異性の中から、自分の対象はこれだと選べる立場にはないんですが」
そうだ。選べるのは早瀬ぐらいだ。
……そう思ったら、たくさんの美女の中から、あたしを選ぶなんてことはありえないことだろうし、選んで欲しいなんていうこと自体がおこがましい気がしてきて、あたし何様よとずぅぅぅんと落ち込んでしまう。