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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
思わず引き攣りながら仰け反れば、早瀬は少々機嫌を損ねたようだ。
「一時間も時間があるんだから、寄ってみてもいいだろう!? どうせ有名店なんか列を作って待たされるのなら、ちょうどいいじゃねぇか!!」
早く出たのは、次の予定がわかっている早瀬だ。
どう考えても、一時間も早くここに着いたということは、早瀬が並ばずにスイーツを食べたかったからとしか思えない。
そんなに自由が丘のスイーツ食べたかったの?
今はネットでも買える時代なのに。
「俺が食ったら駄目か!?」
「いや、いいんだけれど……あたしと食べるの?」
なんていうミスマッチ。
超絶イケメンが、こんな冴えない女と、可愛くスイーツ?
「お前しかいねぇだろ!? それとも俺と別々に入って、ひとりずつ席に座って食えって?」
「なんというか……ことごとく絵にならないなと」
「絵にしなくてもいいんだよ、お前と食えればそれで!」
「……へ?」
すると早瀬は、顔を赤くさせてぶっきらぼうに言った。
「お前、裕貴と一緒に食えるのに、俺は駄目なのか?」
「だ、駄目じゃないけど……」
「じゃあ問題ないだろ? ん!」
早瀬が片手を出した。
なんだろう、握手でもしたいの、こんな道端で……と思って、おずおずと握手をしたら、思いきり怒られた。
「なんで握手なんだよ、そっちの手じゃねぇよ!」
そして奪いとられた手は、指を絡ませて握られ、そのままカーディガンにあるらしいポケットの中に突っ込まれた。
「……っ」
「なんだよ」
「いや、その……」
「ニヤニヤすんなよ。俺は寒いんだ」
なんでこうなったのかわからないけど、なんだか……。
「どこ行く? 調べておけばよかったな」
ごめん。
スイーツより、この手の方が気になって仕方がないの。
手も握ったことはあるし、それ以上の……もう行き着くところまで行き着いているのに、初々しい初デートのようなこの手が、気になって仕方がないの。
女性が好む小綺麗な場所に、いつも見る以上の数の『神の啓示の調べを聴け!』となどと書かれた〝天の奏音〟のポスターが貼ってある――そのアンマッチな違和感も感じずに。