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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 

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 時刻は午前十時ちょっとすぎ――。

 似たような可愛い店ばかりで、ここがいいという決め手がないままブラブラと、手を繋いだまま歩いていたあたし達。

 早瀬がスマホを取り出して、色々とネットで調べた結果、ひとつの店を強く推す。

 そこは、ストロベリーだけではなく、ラズベリー、クランベリー、ブルーベリー……あらゆるベリー類で作られたケーキが作られているらしく、ベリーが好きなあたしは、飛び上がって喜んだ。

「あなたも、ベリーが好きなの?」

 そういえば、早瀬の匂いはベリームスク。

「……ああ。昔、お前に言われて、好きになった」

 口端を持ち上げるようにしてそう笑った早瀬を見て、そういえば音楽室で、あたしが持っていたメロンソーダ味とクランベリー味のアメのどちらがいいか、じゃんけんをして決めたことがあったことを思い出した。

――あたし、ベリーが好きだと言ってるのに、どうしてベリーのアメを選ぶの!?

 どんなにベリーが好きか語ったのに、勝った特権とばかりにぽいと自分の口に投げ込んでしまった早瀬。

――ふぅん? これがお前の好きな味と匂いなのか。だったらさ、俺がこんな甘い匂いをつけてたら、俺を舐めにくるの、お前?

――あ、あんたアメじゃないでしょ!? ベリーの匂いなら、あたしじゃなくて蟻が舐めにたかってくるわよ。

――気持ち悪いこと言うなよ、だったら違う匂いも混ぜればいいんだろう? お前、きりっとしているものより、絶対甘ったるいもの好きそうだよな……。

 ……今まで忘れていたけれど、早瀬がベリームスクの匂いをしているのは、まさか九年前のあの些細な会話に端を発していないよね?

 まさかね。

「あ、あのさ……」

「ん?」

「あなたの香水、どこの? ベリーとムスクの混ざったような」

 すると早瀬は眼鏡の奥の目を嬉しそうに細めた。

「ようやく、気づいて貰えた」

「え?」

「オリジナル。俺の好みの匂いになるように、調合して貰ったものだけど」

 どきんと、心臓が跳ねた。
 
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