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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
まるであたしが思い出した、九年前の記憶から続いているようで。
だけど――たまたまだ、きっと。
勘違いするな、柚。
……そう思うのに。
「いつから?」
確かめて仕方がないと思うのに、愚かなあたしは、自分にとって都合のいい答えを求め、
「……さあね。さ、ついたみたいだぞ」
答えをはぐらかされたことに、落胆する。
あたしは、「九年前から」という早瀬の言葉を期待している。
……ありえないのに。
言われたとしても、冗談かもしれないのに。
早瀬は忘れた会話で、ただの気まぐれかも知れないのに。
それなのに――。
ぶっつりと切れてしまった絆は、あの時から少しでも繋がっていて欲しいと思ってしまっている。
早瀬に恋をしていると自覚してしまったあたしは、早瀬にヤリ捨てられたという記憶を、別のものに上書きしたいから。
……そんなことをしても、九年間は戻ってこないのに。
なにひとつ、過去が変わることはないのに。
「ほら、行くぞ?」
こうやって、優しく微笑みかけられるだけで。
こうやって、手を繋がれるだけで。
あたしはどうして満足していられないのだろう。
どうして、傷つけられた〝言葉〟からまた、新しい関係を築きたいのか。
どうして、九年前のことを忘れられないのか。
どうして、あたしはまた、こうやって迷い続けるのだろう――。