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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 
 
「い、いやいや。自分で食べるから。そっちの方……」

「ん!」

 王様に戻った彼は、反対の手でモンブランが載ってる皿をあたしが届かない遠くに置くと、さらにずいとフォークを突き出した。

 周りから視線。
 横からも視線。

「そ、その……」

「食えよ。いらねぇなら、俺ひとりで食べるぞ?」

「いや、あの……」

 それ、美味しそうなんですけど。
 食べてみたいんですけど。

「なに? じゃあ食べる? はい」

 あたしが周りを気にしていることをわかっているかのように、にやにやとした……ある種ドヤ顔であたしを餌付けようとする早瀬。

「いらねぇの?」

「……っ」

「ほら」

 意を決して、身体を乗り出すようにして、一瞬にして一気にばくん!といこうとしたが、早瀬の反射神経の方が一歩早く。

「おおっと!」

 身体ごと、フォークを後方に反らした。

「なんで逃げるの!?」

「大丈夫だから、ゆっくり来いって」

「………」

「ほら。大丈夫だ、ゆっくり来い。ゆっくり……って、なんでそんなに顔赤くするんだよ!」

「あ、あなたこそ!!」

 なんだかいやらしく誘われている気がして。

「お前のが移ったんだよ、ああまったく!!」

 早瀬は赤い顔をあたしから背けるようにして、だけどフォークをあたしに向けるから、仕方がなく変形〝あーん〟。

 恥ずかしくてもしょもしょと食べていたあたしは、早瀬がズボンのポケットからスマホを取り出して、表情を曇らせていたことに気づかずに、やって来た店員さんが持つ豪華パフェに心を奪われて。
 
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