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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「な!!」
早瀬は唇に人差し指をあてて、あたしを黙らせ、違う写真をまた拡大して見せた。
そこには店内の客ではあるのに、堅気ではないようなサングラスの黒服が向かい合わせに座っているという、酷くありえない図。
「これ……」
そして写真は、そこの席だけではなく、広い店内の他の怪しいふたり……またはひとりの黒服が、明らかにあたし達の方を見ていた。
女性客が多いのに、明らかに異質だ。
これを撮るために、キスをしたのだろう。
どの写真もばっちりと怪しい姿は映っていた。
「今の状況、わかったか?」
あたしはこくりと頷いた。
「意味もなく、こんな小っ恥ずかしいことしねぇから。だからいい子だから、俺の言うことを聞くんだ」
意味ないのなら、別にこんな馬鹿面の写真をこんなに沢山撮らなくてもいいのにと内心思ったが、黙っていた。
「今、なにもしてこないということは、俺達が店を出るところを狙っているのかもしれねぇ。昨日の失敗劇があったから、大人数での捕獲を目論んでるんだろうな、これは」
「……っ」
「この分じゃ、俺の車も抑えられてるかもしれねぇ。俺の車は危ないからここに置いていく。代わりに棗を呼びつけて、その車で動く。予定変更だ」
「なんでわかったの、ここの店に来てるって」
「棗から、今この店に俺がここにいると、誰かがTwitter投稿して拡散しているLINEが来てた。この中の誰かが、普通に投稿したんだろうが、出来るだけ俺、お前を隠してはいたけれど、その写真にお前が少し紛れていたのが見つかったらしい」
隠されているとも知らず、あたしはバカップルまがいのことに狼狽していたのか。そう思えば、やけに早瀬の身体の位置は動いていた気がするけれど、モテる芸能人だからのマスコミ対策なのか、それともその気配に応じて対処できる男だからなのか。
「朝霞から、まだLINE来てね?」
あたしは慌ててスマホを見ると、十分前くらいに一件、ひと言だけ来ていた。
〝早瀬とそこから外に出るな〟