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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
その時、ドンと天井に物音がした。
「上に乗られたわ。須王、いける?」
「ああ。お前は車を頼む」
「OK。……傷だらけになっても致し方ない。請求は須王にするから」
「仕方ねぇな」
なにをしようとしているのだろうかと、こっそり見ると、早瀬が走行中なのに車のドアを開き、天板に片手を乗せるようにして、外に出ようとしていたのだった。
「早瀬っ、なにを!!」
「大丈夫。安心してろ」
早瀬は笑うと、そのまま腕の力を利用し、逆上がりをするようにして天板に乗ったようで。
「ちょっ!!」
その際足でドアを押しつけたのか、ドアが閉まる音が無情に思えた。
「上原サン、そのままそこで潜ってなさいよっ!!」
赤いBMWが黒いボックスカーに体当たりすれば、向こうからもぶつけられて。
横から聞こえる、ガツン、ガツンという衝撃音と共に、上からも天井が凹むんじゃないだろうかと思えるほどの、ドスンドスンとした……戦闘の音が聞こえて。
「上原サン、須王は負けないから。安心し――て!!」
最後の〝て〟で、車体が激しく揺れた。
ガツン!!
ドスン!!
バアアアアン!!
あたりに響く剣呑な音に、生きた心地がしない。
「この……しつこいわね!!」
車が激しく揺れる。
「棗くん、そんなに揺らしたら早瀬が……っ」
「あいつはこんな程度で、落ちるようなヘマしないから!」
こんな程度って、かなり凄いけれど!!
バキッ!!
車の上から、人間が吹き飛んだ。
慌てて窓を見ると黒服の男で、後続車の急ブレーキの音が聞こえた。
早瀬は、隣の黒いボックスカーの上に飛び乗ったようで、早瀬に向けて銃口が向けられる。
「危ないっ!!」
しかし特別に焦る様子もなく、顔を背けるようにしてかわしていく早瀬は、天板に両手を置いて窓の外にぶら下がるようにすると、反動をつけた長い足で銃を持った男を蹴り上げ、中に入ったようだ。