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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
バアアアン!!
黒いボックスカーの窓が割れ、ボックスカーは左右に揺れ始める。
バアアアン!!
バアアアン!!
敵の巣窟にひとりで乗り込むなんて無茶だ。
何人いるのかわからないのに。
全員銃を持っていたら――。
やだ。
やだよ、早瀬。
帰ってきてよ。
死なないでよ。
「須王――っ!!」
思わずあたしが叫んだ直後――。
「須王が戻ってくる。後部座席のドアを開けて!! 早く」
棗くんの声に反射的に反応したあたしは、シートの上を滑るようにして、ロックを外してドアを開くと、早瀬が滑り込んできてドアが閉められた。
それはあまりにも鮮やかで、僅か数秒の出来事で。
「OKだ」
早瀬の声で車は爆走し、ふらふらとなったボックスカーは道路を斜めに停車し、後ろについていたセダンの邪魔をしてしまったようで、追尾車とは距離が開き……逃げ切ることが出来た。
「大丈夫? 怪我は?」
「ねぇから」
「本当に?」
「ああ」
「……よかった。無茶しないでよ、死んじゃったらと思ったら、あたし……」
思わず早瀬の腕を掴んで呟くと、早瀬は切なそうに笑って片手を伸ばして、あたしの頭を彼の肩に預けさせた。
「大丈夫だから。な?」
耳に囁くような優しい声。
「……ねぇ、なんで強いの? なんで銃を持った男に対抗出来るの!?」
しかし早瀬は、あたしの質問に答えずに、こう言った。
「須王って、呼んだよな? お前」
「……っ」
無意識に迸ったのは、確かに彼の名前だ。