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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「パ、パニック起こしてたから……」
「呼んで?」
「やだ」
「呼べよ」
甘く囁くから、頭の中が妖しいピンク色の靄に包まれてしまう。
「……あ、あなたが危ない時ね」
「だったら俺……、喜んで危険の中に飛び込むから」
「……っ」
駄目だ。脳内ピンク色に汚染されていく。
口説かれているように思えて仕方がない。
ちょっと前まで、生死が隣り合わせの危ない環境だったのに。
「お前には、名前で呼ばれたい。……柚」
ああ……。
九年前と同じ台詞を言うの?
「呼べよ、柚」
早瀬の指があたしの唇を撫でる。
「なぁ」
須王と、九年前のように呼ばれたいの?
あたし、呼んでもいいの?
「柚」
喉の奥から出そうになった言葉は、理性が止めた。
切なげに光るダークブルーの瞳。
傾く早瀬の顔。
零れ落ちる早瀬の前髪。
「呼べよ、須王って」
「……っ」
駄目だ。
この吸い込まれるような瞳に、抗えない。
あたし――。
わかったと……了承の意味で、目を閉じた時――。
「全身が痒いんだけど!」
割り込んだ棗くんの声に、あたしは正気に返り、早瀬からざざっと遠ざかる。やだ、やだ。棗くんに聞かれていた。恥ずかしい。
「……棗」
「あんた口説くのなら、私がいないところにしなさいよ。なにが嬉しくて、友達の口説き文句を聞いてないといけないのよ。ざわっとする。あ、いらっとする方が正しいかな。相変わらずにとろとろ、とろとろ……」
「……おいこら」
「もうさ……、上原サン。実はこいつ……「棗、黙れ!!」」
早瀬が後ろから棗くんの首を絞めようとするものだから、赤いBMWも左右に揺れる。
「ひぃぃぃぃぃっ!!」
……恐怖はまだ続くのでありました。