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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 
 
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 きちんとした模範的な走行をしているにも関わらず、他の走行車からじろじろと見られているのは、あの麗しき深紅のBMWがぼっこぼこになっているせいだろう。

 しかし運転手は気にすることなく、抓ってもあたしの肩から離れない片手の持ち主と喋っている。

「須王、あの黒服達どう思った?」

「ああ。プロじゃねぇな、生温い」

「同感。やっぱりそう思ったんだ」

「プロじゃなかったら何なの?」

 話に割り込むと、棗くんが言った。

「上原サンは、プロと言われてどんなものを想像する?」

「え? ヤクザとか、そうした裏組織の人間とか。大体銃を持っていることからして、そういうものに慣れた人種……?」

 棗くんは笑った。

「今のヤクザは迂闊に銃は持たないわ。下手に持ち歩くと法律で捕まってしまうからね。銃を持っているということがプロという定義であるのなら、奴らは間違いなくプロなんでしょうけれど、プロにしてはがさつすぎるの」

「ああ。いかに誰かが犯行を消してくれるといっても、昨日も今日も場所を選ばずだ」

「たまたま見つけたからじゃ……」

「いや。まず拉致目的であるのなら、あの黒いボックスカーは目立ち過ぎる。闇夜ならまだしも、昼間からあんなものが走り、そこから似た黒服の奴らが出るのなら、自分達は怪しすぎる集団だと言っているようなものだ。現にド素人のお前ですら、危機感を持った」

 ドを強調して言われた素人のあたしとしても、そう言われれば確かに、あの黒いボックスカーを見ただけで、「どうしよう」とか「逃げなきゃ」と条件反射で思うようになった。

 黒服を見たら銃で撃たれるとも、確かに思う。

「そして、大衆の中でお前を仕留めようとするプロなら、全員が全員同じ格好をして、他の席に座って出るのを待っていたということがまずありえねぇよ。本気にお前を奪う気なら、銃弾じゃなくても、麻酔や毒針、なんでも方法はあるし、銃音で他人を散らせればいい。昨日のように」
 
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