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エリュシオンでささやいて
第2章 Lost Voice
「柚、お前の声を聞きたい……」
頼りなげな弱々しい声音とは裏腹に、力強い早瀬の手が、あたしの口からあたしの手を引き剥がし、そのまま指を絡めようとする。
あたしは手を拳にして拒んだのだが、今度は早瀬の大きな手のひらが、あたしの拳を覆い包むようにしてぎゅっと握ってきた。
同時に大きなストローク。駆け上る快感。
「……っ、ぁぁああっ」
堰き止めるものがなくなったあたしの快感は、結合部分からそのまま喉に駆け上ったかのように迸る。
「柚、呼んで……俺の名前」
「……っ、やぁぁぁっ、イク、イッちゃう…っ!!!」
早瀬の声と熱に蕩けながら、迫り来る快楽だけに身を委ねた。
「柚、俺の名前っ」
真っ白な頭の中で、切なそうな早瀬の声が聞こえた。
――柚って呼んでいい? 俺のこと、須王って呼んで?
「柚、呼べっ!!」
――柚だけは、須王って呼ばれたんだよ。
あたしの深層を穿つような、激しい抽送。
「――ああああっ」
チカチカと白い閃光が強まる中で、あたしは快楽に泣きながら頭を横に振り、早瀬のすべてを拒絶しながらも、突き抜けてくる快感に負け、そのまま身体を反り返らせるようにして、一気に達してしまった。
「柚――っ!!」
震えながら掠れきった声で叫ぶ早瀬が、がくがくと揺れるあたしの身体の中で、薄いゴムを隔てて終焉を迎えたのを感じ、ようやく……、この時が終わって、ほっと息をついた。
ザアアアアア。
……シャワーの音と、床のタイルに崩れ落ちたあたしと立ったままの早瀬の荒い息づかいがやけに耳に響く。
荒廃した心に降る雫の音は、潤いをもたらすものではなく、どこまでも交わらないあたしと彼との不協和音のようにも思えた。
どんなに切なくあたしの名前を呼んでも、勘違いしてはいけない。
性処理だと、そう告げたのは早瀬だ。
性処理の道具は、道具らしく身の程を知らねばならない。
……九年前のように、もう、傷つきたくないから。