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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 

「なぁ、棗。M84ではなくM85だとしたら、お前の〝前職〟からじゃねぇか」

 棗くんの笑い声がぴたりと止まる。

「でも、改造してるんでしょう?」

「ああ。だけど元が、そっちから流れてきたものならば」

「薬物が関係あると……?」


「待ってぇぇぇ、なにその話!!」

 まるで意味が不明なのに、突き進むふたりの会話。ストップをかけないと、恐怖心だけが煽られていくようで。 

「まず、棗くんの前職ってなに?」

「え、あ……マトリよ」

「マトリ?」

「麻薬取締官のことよ」

 さらりと、棗くんは言う。

「ええええ、警察にいたの、棗くん!」

 そんな格好で、というのは呑み込んだ。 

「ちがうわよ、マトリは厚生労働省所属であんな融通の利かない奴らではないわ。この格好を認めないんだから。いいじゃないのよね、ひとには趣味があるんだし」

 棗くんはぷりぷりしているが、あたしにとってみれば大した違いはない。

 ……女装、趣味だったんだ。

「待って。前職から銃が流れてきたって、そのマトリさんでは銃を使うの?」

「マトリは名前じゃないんだけれどね。……そう。ベレッタM85、さっきの黒服が持っていた銃のシリーズを使うわ。時に海外のマフィアも絡む、やばい仕事も多いからね」
 
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