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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「あ、裕貴からLINE……」
早瀬が仕事用のスマホを取り出した。
そういえば、自由が丘の喫茶店で早瀬が取り出していたスマホはプライベート用だったなあなどと思っている横で、早瀬が顔を曇らせた。
そしてあたしに画面を見せる。
〝店員、昨日の奴はいないみたい〟
〝付近は、両隣の店含めてまるで記憶にないらしい〟
〝なにかおかしい〟
「どういうこと?」
「ネットは書き換えるハッカーがいるとして。だけど目撃者が記憶にねぇと言うことは、脅されたか本当に記憶がねぇかのどちらかだ」
「本当に記憶がなくなるわけないでしょう。だったら脅されたか……朝霞さんに、ということか」
「朝霞ひとりでそんなことはできねぇだろうし、裕貴がおかしいと言っているのがひっかかる。あいつの直感的観察眼は卓越しているからな」
「だったら、たくさんのひとから記憶がなくなったということ? ありえないでしょう、それは。そんなホラーみたいなこと」
「ああ……」
早瀬は険しい顔で考え込む。
「いや、あるかもしれない」
棗くんの声に、あたしも早瀬も驚いた顔を向けた。
「今、私が追っているのが、Amnesia of the Pomegranate(ポムグラネイト)……通称AOP」
「訳して……柘榴(ザクロ)の記憶喪失、か」
早瀬が和訳してくれた。