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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「そう。不可解な事件が起きているの。日本に限らず世界にも。突然集団で記憶がなくなるの。そして必ずそこには、柘榴の甘い香りが漂っているという……」
「あの……棗くん」
「なに?」
「あなた何者なんですか?」
「あ、私も正体あてクイズする?」
「い、いやいいです。嫌な予感しかしないので」
「上原サン、勘がいいわね。まあ、探偵とでも思っててよ、世界を股にかけた……美女探偵ね」
……絶対探偵じゃないんだろうな。
「裕貴に聞いてみた。なにか臭いはしてたかと」
「返事は?」
「〝甘い香りがしてた〟だそうだ」
「AOPの可能性が高いわね」
「え、朝霞さんなにか関係あるの?」
「あるかもしれないわね。AOPはまったく予測不可能なの。誰が作ってどうやってばらまいているのかわからないし、記憶が失った後の記憶の合成方法もよくわかっていない。……海外から輸入されたものか、日本から海外に逆輸入したものか、それすらまったく」
「だけどなにもわからない状態でお前が動くわけはない。帰国したということは、なんらかの情報は掴んでいるんだな」
「ちょっぴりね」
「流せ」
「ギブ&テイクよ、須王」
「……朝霞と会わせる」
「………。財閥が動いている」
「どこの! 忍月か!?」
早瀬は声を荒げた。
「違うわ。あんたが入っている協会の長」
「一之宮か」
「なんだかあの御曹司、汚いことを裏でしているみたいね。彼がAOP制作に資金を出しているのでは……という話」
協会はオリンピアを助けた。
そこで朝霞さんは、AOPに関わってしまったの?
「……黒幕は一之宮ではねぇんだろ? 少なくともお前の考えでは」
「なぜ?」
「付き合い長いんだ。それくらい見抜けなくてどうする」
棗くんは愉快そうに笑った。