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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice


 棗くんは男の声で言った。


「……復活だ」

「は……?」


「〝我らは永久の闇より汝を求めん〟」


 あたしにはわからない呪文で、早瀬の表情が凍り付いた。

「お前もその可能性を疑ったから、俺に連絡したんだろう?」

 早瀬の声より低い、男の声の棗くんの声音が、とてもおどろおどろしくて怖くて、ざわっと悪寒を感じた。

「それは間違いないのか?」

「ああ。彼女が狙われているとなれば、〝ザクロ〟なんだろう。AOPと関係なくとも」

 その時の早瀬の眼差しをなんと表現すればいいだろう。

 悲哀であり憤怒であり悲嘆であり。

「あの……?」

 早瀬は苦しそうに唇を噛みしめると、眉間に皺を寄せて目を瞑り、そのままシートに背を凭れさせて、喉元をさらすようにしてなにか考え込んでいる。

「それだけじゃない。お前、〝天の奏音〟って知っているか?」

「ああ。宗教だろう、胡散臭い」

「あの教祖に見覚えないか?」

「よく見てねぇな、デブハゲだったろう」

「あれ、大河原だぞ」

「あ?」

「幼女趣味に屍姦趣味で、無期懲役の判決食らった」

 あたしは飛び上がった。

「大河原って、まさかあの大河原ですか!? 連続幼女誘拐と強姦と殺人を引き起こして、一時有名になった。確かあれ、あたしが大学行ってた時だから……」

 亜貴がテレビを睨み付けるようにして見ていたのを覚えている。
 いつも温和なのに、もの凄く怖い顔をしていたから。

「そうそう、それよ上原サン。よく覚えてるねぇ」

 棗くんの口調はまた元に戻った。

 否、素を隠した……とでも言えるか。
 
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