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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「でも無期懲役ということは、刑務所にいたんでしょう? 脱走した、ということ?」
「あははは、凶悪犯が脱走して今まで捕まえられずに行方不明となったら、警察の沽券に関わるわね」
「つまり……法の上層部に、大河原を逃がした奴がいるということか?」
早瀬が恐ろしいことを言った。
疑問系の割には断定的だ。
「恐らくは。上層部を動かせる人物かも知れないけど」
「〝天の奏音〟を作らせた奴の可能性もあるということか。宗教自体は確か数年前の創立だったはずだが、匿っていたと」
「そうじゃないと凶悪犯が顔を変えて堂々と出来ないでしょう。それに性癖というのは治らないもの。性欲を抑えるために女宛がうか、案外少女誘拐して餌にしているかもしれないわね。警察がくっついているのなら、冤罪の犯人を挙げて檻の中に入れればいいことだし」
棗くんの口調には、警察をどこか小馬鹿にしたようなものがあった。
「……棗くんは警察が嫌いなの?」
「うん、嫌いよ。権力志向だから。上原サンは?」
「……あたしも好きではないわ。あたしの訴え、聞いてくれなかったから。好きではないというか、頼りにしていないというか」
「なにかあったの?」
あたしは、窓の外の流れる景色を見て昔語りをした。
「昔……、仲良くなった女の子が目の前で拉致されて。頭だけの状態で後日、別の公園のゴミ箱で発見されたの」
早瀬の視線を感じる。
「それで交番にあたしが見たことを話したんだけど、取り合ってくれなくて」
「犯人を目撃したということ?」
「うん。サングラスをかけた黒服の……」
あたしの脳裏になにかがチカチカと点滅して、記憶が早送りに再生される。
歌う天使。
泣くあたし。
現われる黒服。
走馬灯のように流れる記憶の中、黒服の男がアップになった。
どこをどうとも言えない平凡な顔が特徴的なその顔を、最近見たような気がして。
確か、それは――。