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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「あ!!!」
ゴォォォン!
思わず立ち上がったら、天井に思いきり頭をぶつけて蹲る。
「おい、どうした?」
頭をさすりながらあたしは答えた。
「昨日喫茶店で、銃を持って入ってきた黒服の男……、九年前に拉致した男のひとりにそっくりなの! だから、見たことがあると思ったんだ!」
つまり――。
「あれ? じゃああの黒服、九年前も九年後も同じ格好して、今度はあたし拉致に来ているというわけ? まさか目撃したからとか? ……時効だよね」
……色々と無理がある。
あれから十年近く時間は流れている。
男も老けるだろうし、十年後の目撃者封じにしてもなにか説得性がない。
「……お前、そいつが拉致された時、お前は連れられずに置いて行かれたの?」
早瀬の目が怖いほど真剣で。
「うん」
「縛られるとか、脅されるとかなにかされて?」
「ううん、そのまま公園でポツン」
「……その後、自分の足で帰ったのか?」
「多分ね」
「そんなの見て、歩けたのか?」
「……多分。お金も持ってなかったしチャリに乗ってきたわけでもないし、歩いて帰るしか手段ないし」
……実際のところ、どんな状態で帰ったのか、記憶は曖昧だ。
その後は、日を改めて公園で天使を待っていた記憶から、天使の死亡を知った記憶に変わる。
そう言ったら、早瀬はあたしがどうやって死亡を知ったのかと訊いた。
そう改めていわれると……。
「あれ、なんで知ったんだっけ。新聞見ただけでは、きっとあの子だとわかるはずがないだろうし。そう言われれば、どうしてあの子の頭だと思ったんだろう」
屍体の写真が載っていたわけでもあるまいし、人づてにしてもよく天使だとあたしは思えたよね、今考えれば。
死んだとわかってからも、公園には行ってみたけど、天使は現われることはなかった。それでやっぱり、死んだのは天使なんだと思って。
……あれ、その記憶は死亡の前の記憶?
強烈だったくせになにかあやふやな記憶。
もしかして、生きている可能性もあるの、あの子は?