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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「頭部の身元は?」
「戸籍がなかったから、わからなかったみたいだけど……」
「お前が会った奴の特徴は?」
「髪が長くて白いネグリジェ着ていて、赤い首輪をつけていて、滅茶苦茶可愛いの。喋らないけど歌が上手くて、声帯模写も出来て。名前とかもよくわからない。その日にあったばかりだったから」
「……屍体は首を切られていただけか?」
「頬に〝Elysion〟と刻まれていたみたい。それであたし、会社に運命感じたの」
そのエリュシオンで早瀬と再会したから、これも運命的とも言えるのかもしれないけれど。
「……棗」
「……なに」
「お前も同じこと考えてるだろう」
「あらよくわかるわね、須王と同じこと考えているって」
「はは」
「ふふ」
……笑う割には、ふたり刺々しい……殺気に満ちた空気を纏っていて、それから先、あたしは……ごくりと唾を飲み込みながら、居心地悪く座っているしか出来なかった。
一之宮財閥が柘榴の匂いがするという……AOPというものを作っていて、朝霞さんがそれに関係しているのかな。
あたしは、早瀬と棗くんとの会話を頭の中で反芻してみたが、いまだあたしを拉致……或いは殺そうとしている者の正体がわからない。
プロの犯行ではないとすれば、黒服はどこで増産されて派遣されているのか。
それはAOPを作っているという一之宮財閥なのか(一体なにに使うんだ?)。 それとも、ロリコン犯罪者が教主をしている〝天の奏音〟なのか(あたし、成人女性だけど!)。はたまた別のものなのか(まだあるのが怖っ!)。
もしかすると元麻薬取締官で今は自称探偵という嘘つき棗くんと、音楽家のくせに銃をも怖れずやっつけられる……やはり嘘つき早瀬は、なにか思い当たることがあるのかもしれないけれど、馬鹿で定評のあるあたしは、頭を目一杯フル回転させて考え込んでいる最中に夢の中。
……オーバーヒートからくる現実逃避。
そんなあたしの身体が、温かなもので包まれた気がした。