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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
*+†+*――*+†+*
「うわっ、なんで車が違ってるの!?」
目が覚めたら、車は青山の早瀬のスタジオの門を潜るところだった。
居眠りをしていたからそれは仕方がない場面転移とはいえ、あたしが早瀬の肩を枕にしていたこともいいとしても(よくないけど)、車の内装がまったく違うことに驚愕した。
黒い内装だったはずが、目が覚めるとベージュ色になって、後部座席の真ん中……あたしと早瀬の間には肘置きらしきものが現われ、そこにはたくさんの黒いボタンがついている。
明らかに、棗くんが乗って来たBMWではなかった。
「ああ、これ? 須王のAudi(アウディ)A8よ」
商品名で言われても、まったく凄さがわからない。
「え、早瀬さんの?」
「そうそう。マッサージも出来ちゃう優れもの。金持ちはいいわねー。……ところで上原サン。私達三人タメの同窓なんだから、呼び捨てにしちゃえ、須王って」
門が開き、スタジオの敷地内に車を進めながら、棗くんは笑うと、それに早瀬が乗じた。
「呼び捨てにしろよ、須王って。さっきだって呼んだだろう?」
「……っ」
須王って呼びたいなとは思ってはいるけれど、それは恋心から発生したものでして。なにもない時にそんな呼び方をして、金曜日フラれてしまったら、バツが悪いというか……。
「俺も柚って呼んでるだろ? 俺がいいと言ってるんだからさ」
なぜに強要する。
「それは……」
「ん?」
「時と場合によって、最終手段として判断させて頂きたく……」
「なんでだよ!」
「ぶはははは。上原サン、いい!」
「棗くんもあたしのことを苗字で呼ぶし。棗くんもいいよ、呼び捨てで」
「下の名前で呼びたいんだけれど、狭量の男に駄目出し食らって」
「え?」
「棗に許可しなくていいんだよ。大体お前、棗には〝棗くん〟で俺は〝早瀬さん〟なら、全然扱いが違うじゃないか! どっちの方が付き合い長いんだよ」
詰られている気がするんですけれど……。
「いや……、あなたが棗と呼ぶから、あたしも棗くんと呼んでるだけで」
「なら、棗は俺のこと須王と呼んでるんだから、つられろよ!」
「だったら……棗くんが、あたしのことを柚って呼んでくれたら、あなたのことも呼ぶように努力します」
三人同じ立場にいるのなら、同等じゃない。