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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「どうする~、須王。俺、柚って呼んでもいいのか?」
「こんな時に男に戻るな、アホ!」
「あははははは!」
棗くんは大爆笑。ひーひーだ。
「黙れ、棗!! 棗は柚と名前で呼ぶことはないが、お前は須王と呼べよ」
「いや、だから」
王様には、あたしの提案が通じないらしい。
なぜに過程を無視した結論を出すんだ。
「呼べと言ってるだろう?」
あたしはむぅと唇を尖らせた。
「……だから須王。なんで呼んで欲しいのか言わないと」
小声でなにか棗くんが言った。
「うるせぇよ、棗!」
騒がしい中で車は着いて、あたしは真っ先に下りた。
「こらっ!! 逃げるんじゃねぇよ!」
乗っていた車は、白い車だった。
アウディという名前だけではピンとこなかったが、このオリンピックの五輪みたいなマークなら、あたしも知っている。実際は四輪一列だけれど。
早瀬がなにか言いたそうだから、あたしは棗くんの隣に小走りで行き、棗くんに尋ねた。
「さっきまでは棗くんの車だったよね? なんでアウディに乗ってたの?」
「上原サンが寝ていた間に、須王の家に寄って、車替えたのよ。私はそのままでもよかったんだけれど、また野次馬にSNS拡散されても困るから」
……そういえば、再会して二年になるのに、一度も早瀬の家に行ったことがない。抱かれる時の選択肢にも、いつも早瀬の家はなかった。
「柚」
手を引っ張る早瀬に、思わずぼそりと言ってしまった。
「家、あるんだ」
「あ?」
「ん、そりゃああるでしょうけど」
なんだか複雑でもやもやする。
あたしも家に入れないようにしていたけれど、押しかけられたとはいえ、部屋に入れたのに、早瀬は家ではなくスタジオに案内するし。
見たいわけでもないけれど、早瀬の牙城にという話題が今まで一度たりとて、早瀬の口から出てこなかったことに、もやもやなんだ。
……棗くんは何度も招いたのに。