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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 

「あんた何歳よ」

「須王と同じよ」

「あははは! 私より年下じゃないの。このガキが」

「ぅあ゛!?」

 棗くんのお下品な男声。

「文句あるのかぁ!?」

 負けじと声を張り上げる女帝。

 華やかな美女ふたりが、間近で睨み合い、いわゆる「メンチを切る」状況。

 ……いやもう凄いね。
 女帝の過去は本当で、棗くんは負けてないよね。
 
「柚……、俺ちびりそうなんだけど」

「裕貴くん、実はあたしもそうなの」

 お互い素を出せるということは、仲良しさんなのかな。
 うん、ビビッときちゃったんだね。

 早瀬を見ると、疲れた顔をしてため息をついている。

 そして――。

「そこまでだ。真性女と、仮性女もどき」

 一触即発状態だったその中を、早瀬が堂々と割って入った。

 ……なんだか早瀬を巡る女のトラブルに慣れているような感じだ。

「この仮性女もどきが、白城棗。HADESプロジェクトのベース担当だ」

「はああああ!? こいつがぁぁ!?」

 裕貴くんが驚いた声を出すと。

「よろしくね、ぼうや」

 棗くんの魅惑的な投げキスが裕貴くんに飛ばされて。

「あ、いらねぇよ。いらねぇってば」

 宙で両手をバタバタと動かして、ハートマークを追い払おうとする裕貴くんの顔は真っ赤で。

 恋愛相談に乗れる大人顔負けの裕貴くんも、美人のお姉さん(お兄さんだけど)にドキドキする、普通の純情な男の子なんだなあと思うと微笑ましかった。

 ……女帝が「本当にベース弾けるの?」と零したそのひと言で、棗くんがベースを披露することになったのは、その十五分後。

「すげぇぇぇぇ……」

 裕貴くんが開けた口をそのままにしているほどには、頭を激しく振りながらベースを引く棗くんは、ビジュアル的にも派手で。

 その腕は……小林さんと裕貴くんが各々の楽器を手にして、セッションを始めるくらいには、とても素晴らしい技術で。

 それを見ている早瀬が本当に嬉しそうに、足でリズムを取っていた。

 失われるものがあるかもしれないと、生きた心地がしなかった危険な状況の中でも、ひとつの輪から次々に生まれ出るメロディがあることが、あたしはとても嬉しくて、絶対HADESプロジェクトを成功させたいと思った。

 
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