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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 

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 日曜日――。

 あたしと女帝が一生懸命スタジオをお掃除している間、プロデューサーの辣腕発揮して、早瀬がスタジオで三人の指導に入る。

 本当に、(スパルタ)合宿をする気だ。

 女帝が買い込んだらしい材料でパウンドケーキを焼いてくれて、一度スタジオの戸を開けておやつをお知らせに言ったら、早瀬の指示で小林さんの段々早くなるドラムに合わせて、裕貴くんのギターと棗くんのベースが、アルペジオ(和音やコードをひとつずつ弾いていく方法)のユニゾンをしていて、あまりの速さに怖れをなしたあたしは静かにドアを閉めた。

 ドアを閉めれば音が漏れない、完璧防音スタジオ。
 ……スタジオ内に黒服が入って来たら、銃音が鳴り響き、どんなに悲鳴を出そうが、聞こえないかもしれない……恐ろしい場所でもある。

「絶対あたし、スタジオには逃げ込まない」

 なによりグランドピアノを傷つけることはしたくない。

 できたてほかほかのパウンドケーキを、女帝特選コスタリカ(珈琲)で、リビングスペースで頂いていたところに、四人のお戻り。

 すぐに声をかけなかったことを詰られはしたが、花嫁修業の一環としてお菓子作りもマスターしていた女帝の手作り品は冷めても美味しくて。

 しかし早瀬はあまり口をつけずに部屋に行ってしまった。

 カウンター席にいる女帝は裕貴くんとのお喋りに気づいていないからよかったけれど、女帝の美味しいケーキが口に合わなかったのか、それとも体調悪いのか。

 追いかけようとしたら、ソファに座って優雅に……どう見ても女性のものとしか見えない所作で珈琲を飲んでいた棗くんがあたしを止めた。

 まとめ髪に、胸が盛り上がった薄手のピンクのセーターに黒のジーンズ。

 ……盛り上がっているものはなにか。
 頭をぶんぶんしてベースを弾いてても、盛り上がったまま肌に吸着するものの正体はいかに!

「上原サン、須王は甘いの駄目なんだ。だからこの甘ったるい匂いに逃げただけだから」

「は?」

「昔から甘いの無理なのよ、あいつ。匂いからしてもう駄目みたい。だけどベリーだけは食べるようになって。それでもかなり挑戦して、ようやくそれだけは食べれるようになったんだけどね。香水にするくらいは限定で平気になったようだけど、あれも甘いわよね」
 
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