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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「え……。でも昨日喫茶店に……」
そう、ケーキやパフェを食べたじゃないか。
「馬鹿でしょう? なんで昨日ケーキ屋にいるのかと思ったら、上原サンはケーキが好きなんでしょう、きっと」
「好きですけど……」
「だから連れていったのよ、格好つけて」
「だから、……って」
「聞くところによれば須王だけ、その前の日の木場の喫茶店に寄ってなかったんでしょう? あいつ、仕切り直ししたかったのね、今度は上原サンの記憶を自分のもので上書きしたかったというか。あいつ本当に執念深いというか独占欲が強いというか……ああこちらの話」
「………」
「でもまあ、結果的には黒服に追いかけられたけれど、それでもこんなに賑やかにわいわいさせているから、夜も寝れているんでしょう?」
「……うん」
寝れている。皆と賑やかに騒いだ分、ぐっすりと。
「本当は群れるのは好きじゃないんだけどね、あいつは。だけどまあ、ここの面々、個々はうるさくても音楽のセンスあるみたいだから、野放しにしているんでしょうけれど、あいつが自分のスタジオを開放して好き放題させていることは珍しいことよ。少しは変われたのかな、あいつも」
あたしは、ジーンズを片手できゅっと握った。
「須王、上原サンにとってはわかり難い奴かもしれないけれど、私にとっては単純この上ない奴なんだわ。プライベートは、好きか嫌いか、必要か必要じゃないかの二択しかないから」
……女帝が皆の前で告白した時に、早瀬はプライベートでは必要がないと言っていた。それであたしはトラウマをぶり返した。
「……でもあたし、九年前に不必要な存在だと言われたし。あれ、棗くんだったのならわかってるよね? 嫌いだから、棗くんに女装させて女のフリをさせてまで、あたしを突き放したんでしょう?」
それはあたしのわだかまりでもある。
幾ら今の早瀬が、理由があったからと言っても、あの時のあたしは、嫌われているからとしか思えなかった。