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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「動けるようになったら、点滴外して須王、病院を飛び出してね。あいつの親、家にいないから、いつもいつも病院から私に連絡が来て怒られて、探しにいっては連れ帰ってたの。わかる? 上原サンの家の前まで行ってたの。あなたの家は高校でも有名で、よく野次馬も行ってたでしょう」
「なんで……っ」
あたしの目から涙が零れた。
「須王がなにを考えていたのかは、直接須王に聞きなさい。まあ、金曜に話すつもりなのかもしれないけれど。出来れば、須王の言葉が自発的に出るのを待っていて欲しいな、という気持ちはあるけれど」
「………」
「やっと退院できたのは冬でね、須王は補講をしてようやくぎりぎり卒業出来た。入院中に勉強頑張って、現役で大学には行ったけれど。普通の一般大学から、帝音大に編入して海外にも留学したの」
一般から帝音大に編入するのは、トップレベルの音楽の技術と知識がなければいけないと聞く。宝塚の入学試験以上に狭き門なのだ。
しかも海外なんてエリートコースじゃないか。
「どうして行けたの? 音楽やっていなかったのに」
「頑張ったの、須王。凄く頑張ったの。元々は趣味でアコギ(=アコースティックギター)を弾いて、私はベースを弾いて遊んではいたんだけれど。それ以外の、ピアノを始めとしてあらゆる音楽をマスターしたの。寝る間も惜しんで。ひとは彼を天才音楽家と言うけれど、私から見れば、努力の賜よ。あれだけ頑張ったのだから、どんなに若かろうと今の地位があるのは頷ける。当然よ」
あたしはその場でへたりと座り込んでしまった。
「友達として、須王の名誉のために言っておく。須王はね、決して極悪非道ではない。あなたを言葉で傷つけたから、その報いで説明していないかもしれないけれど、私から見れば言葉でまたあなたを傷つけたらと怯えているだけ。それでも、言葉足らずでもあなたの傍にいようとする……どれだけ彼も、過去のトラウマをぶり返しているかしらね」