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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
――クラシック、教えて欲しいんだけど。
――柚って呼んでもいい?
――柚、もう俺、限界。痛かったら、俺の肩を噛んでいいから。優しく出来なかったら、ごめんな……。
――有名人の娘だからお前のバージンに価値があった。それがなくなれば、お前に価値はねぇ。性処理でもいいって言うなら、抱いてやるけど?
九年前の思い出に、ぶわりと涙が溢れる。
――早瀬須王です。よろしくお願いします。
――これは契約だ。ヤクザに売れる体なら俺に売れ。俺が抜きたい時に性処理としてお前を抱く。拒絶したら契約は白紙だ。
――俺、お前に音楽を楽しいと思って欲しいんだ。
――俺は言葉が苦手だ。俺の言葉で、絶対に傷つけたくなかった……この世で一番大切な女を傷つけてしまったから。傷つけなければならなかったから。
――だから、理由があったんだって。お前を突き放さねぇといけなかった。
――……言葉で伝えてやるよ、ちゃんと。……態度に出しても邪推されるくらいなら、俺も今度こそ腹くくるから。
二年間の思い出に、溢れた涙が滝のようにこぼれ落ちる。
「須王の言葉は、あなたを傷つけたと同時に、あなたを守るものでもある。それだけは忘れないで欲しいわ」
「……あたし、早瀬に珈琲のおかわり持って行く!」
それは、あたしがおかわりしたばかりの珈琲だったけれど、珈琲と半分残っているパウンドケーキを乗せたお皿をお盆に乗せて、笑う棗くんに手を貸して貰って立ち上がると、早瀬の部屋に赴いた。
「「柚、頑張れ」」
小林さんと共に、あたしと棗くんの会話のすべてを聞いていたらしい女帝と裕貴くんが、泣きそうな顔で応援してくれているのを知らずに。