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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
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コンコンとノックをしたけれど返事がなく。
ドアノブを回せばドアが開いたから、あの~と声を出して中に入ってみた。
「すみませーん」
スタジオの主の部屋は大きく、ゲストルームの倍ほどの大きさがある。
机の上には五線譜。横にはシンセサイザーとギター。
パソコンには音楽作成ソフトが動いている状態。
これは早瀬が請け負っている仕事のものなのだろう。
早瀬は真夜中、自分の仕事をしているのか。
ここでひとりで。
「早瀬さーん」
まるで反応がないが、続き間にベッドが見え、そこに転がっている早瀬の姿が見えた。
「あの……」
声を出しても応答がないのは、眠っているのだろうか。
枕に顔を埋めて俯せになって寝ているように思えた。
せっかく来たけれど、眠れる時に睡眠を取らせてあげた方がいいと、お盆をサイドテーブルの上に置いて、足元にある掛け布団を伸ばして、早瀬にかけようとした時――。
「え!?」
それは僅か一瞬にて、あたしはベッドの上に俯せ状態で寝転び、ベッドに座った早瀬の片足が背中を押さえつけている状態で、片手は後ろに捻りとられていて。
完全にどうにも出来ない状態で固められていた。
「あ、お前か……」
あたしだと気づいてくれて解いてくれたからよかったものの、わからなかったらあたしどうなったんだろう。
半べそ状態で起き上がろうとしたあたしは、早瀬の両手で持ち上げられたかと思うと、そのまま早瀬に抱きしめられるような格好でベッドでごろり。
ベリームスクの匂いが鼻腔に広がった。
「悪い……。悪夢見てた」
早瀬の胸に頭を埋めると、早瀬の早い鼓動が聞こえた。
「どんな夢?」
「ん……、俺の中から音が消えた」
「……音楽家だね、やっぱり」
音の専門家にとって、奏でる音がわからなくなるのは恐怖だ。
あたしもピアノをしていた時、自分の音がわからなくなって軽くパニックに陥ったことがある。
だからって、なんであたしが取り押さえられたのかわからないけれど。