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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
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『八重洲口 日本橋R1ビル8F「神楽亭」、夜七時。こちらはマリエと二名、アサカの名前で個室をとってある。久しぶりに酒を飲もう。タクシーで来い』
今まで既読のマークがつかなかった朝霞さんから、一方的なLINE連絡が来たのは、日曜日の午後九時。
裕貴くんがタブレットを使ってネット検索をしてくれたら、場所はわかった。地下鉄で日本橋駅を下りたら意外と近いようだが、タクシーの指示。
早瀬はタブレットを見ると、仕事用のスマホを取り出して、指定された神楽亭になぜかすぐ電話をした。
「さきほど予約した朝霞といいますが、ちょっと確認をと思いまして。予約人数は何人……はい、六名ですか。はい、最初の飲み物は……五名がビールで、一名がオレンジジュース……はい。それで結構です」
早瀬は電話を切った。
「タクシーで来いといいながら、オレンジジュースを用意しているということは、俺だけではなく、三芳と裕貴も来ることを見越しての六人だろう。上原、マリエって言うのは?」
「真理絵さんは、あたしの先輩でオリンピアにいるとてもお世話になったひとよ。真理絵さんもくるんだ……」
あたしは、LINE画面をじっと見た。
「私、行くのは構わないけど、初っぱなから女性にビールを勧めるっていうのは感心しないわね。普通聞いてから始めるものよ。ねぇ、柚」
女帝が眉間に皺を寄せながら言った。
「え、姐さんと柚がビールなら、俺がオレンジジュース!?」
「当然でしょう、あんたは未成年なんだから! なによ、あんた嫌いなの、オレンジジュース」
「いや、好きだけどさ、皆で子供扱いするから。……ん? どうしたの、柚。なにかひっかかることが?」
「いやその……朝霞さん、真理絵さんのこと、下の名前で呼んだことないのよ。笠井って呼ぶから」
「その笠井ってのと付き合ったとかは?」
真理絵さんは朝霞さん好きだったけれど。
「……付き合ったとしてもカタカナがおかしいわ。朝霞の名前も、あたし真理絵さんも朝霞さんも漢字知っているんだし。あと、タクシーで来いとのいい方も変。いつもは命令口調ではないの、彼」
そう、木場での喫茶店で、銃男が乱入して来た時、初めて声を荒げた。
いつもは温厚で優しい口調をするひとなんだ。