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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「そのLINE、朝霞っていう奴が入力したわけではないかもね」
それまで座って聞いていた棗くんが、淹れたてのほうじ茶を啜りながら、ぼそりと言った。
棗くんは、いつも輪に入ってこない。
女帝と最初ほどいがみ合わなくなったにもかかわらず、スタジオの中では、あたし達に線を引くようにしてぽつんと座っている。
早瀬ですら、棗くんの近くに寄らないと、棗くんは話し出さないのだ。
車の中ではあんなに喋って打ち解けていたのに、広い空間になると、なにか警戒されているようで寂しい。
「朝霞さんのスマホは、誰かに奪われているかもしれないわね」
「でも自由が丘ではLINEくれたんだよ?」
「ひと言でしょう? ばれたら普通は没収よね」
「え、没収って……朝霞さん捕まっているということ?」
「可能性のひとつとしてね。もし朝霞さんが木場の喫茶店での出来事に何らかに関係していたとして。それが黒服でも薬物男でもどちらでもいいけれど、上原サン拉致をしくじった事実には変わらないし。AOPでの記憶操作をして事件を隠した後に、捕まっている可能性はある。お仕置きとして」
AOPについては、既に女帝と裕貴くんと小林さんに話してある。
元マトリ現探偵の調査結果として。
ちなみに自由が丘に置かれたままの可哀想な早瀬の車は、日曜日である今日、棗くんと引き取った後検査に出してきたようだ。……なんの検査でどこに出したのかは教えてくれはなかったけれど。
「その朝霞さんが外にでて上原サンと接触するとなるのなら、これは完全な罠だと思うわよ」
「でも、真理絵さんもいて……」
すると棗くんは美しく微笑んだ。
「マリエの名前で、少なくとも上原サンは少しは警戒心が緩み、ふたりに会いたい気分となっている。そして多分、こう続くはず。『あたしは朝霞さんときちんと話したいの』って」
……うう、図星だ。
朝霞さんがなにか知っているのなら訊きたい。
朝霞さんと話をするために、夕食を受けたのだ。