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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice

「その感じでは図星だったようだけれど、そうやって上原サンが意気込めば、皆はなにも言えなくなる。そして須王はこう言うのよね。『俺が守るから大丈夫』。違う?」
早瀬は両肩を竦めて見せた。
「心理戦ならお前に敵わない」
棗くんは笑う。
「もう、食事には行くこと前提の話となっている。あれだけ怖い思いをしたのに。いえ、したからこそ、なのかもしれないけれど」
「……っ」
確かに、危険だから行かないという選択肢はない。
「それに、こうも言える。もし上原サンにLINEしたのが朝霞さん本人であったのなら、わざとおかしい部分を出して、警戒させるように仕向けたとも。どちらにしても、明日の食事会は罠には間違いないだろうけれど」
あたしは裕貴くんと女帝と顔を見合わせた。
「さあ、それでも決行するの、須王」
早瀬は超然として笑った。
「俺と棗がいて、罠を破れないって?」
棗くんを見下ろすような、王様の貫禄で。
「少なくとも四名分は朝霞が引き受けたわけだ。朝霞が指定していない残り二名で、俺達の退路を確保しとけ。その間、俺が三人の命を守るから」
「いいの、あんたはただの音楽家なんでしょう?」
「そうだよ、ただの音楽家だよ」
……絶対違うよな。
あのアクションは、どう見ても慣れているものだ。
留学先でなにかしてたとか?
海外ならなんでもありの体験が出来そうだけれど。
でも棗くんも早瀬の力を知って、早瀬も棗くんの力を知っているということは、今までに何度もコンビ組んで危ないことをしていたのかしら。
そもそも、このふたりはなんで仲良くなったの?
本当に高校時代の友達だけ?
頭の中はハテナだらけ。
「はいはい。だったら、ただの音楽家を守ってあげないとね。罠を逆手にとって罠をかけなきゃ」
棗くんが不敵に笑った。
それは美女の笑みではなく、修羅場をくぐり抜けてきた男の持つ、威嚇の笑いのようにも思えて、ぞくっとした。

