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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice

いつもいつも、流れ作業で済んだマニュアル人間の社員達は、通常業務が滞ってしまったら、他にどんな仕事をすればいいのかわからないらしい。
育成課でも、100本ノックを仕事中堂々としている藤田くんと(土日なにしてたんだろう!)、隣にいる水岡さんは、ノートパソコンでネットを見ている。
他の課を覗いても、お喋りをしたりネットをしたり、寝ている社員すらいて、会社の危機とも言えるこの状況下で、電話を取ろうともしない、このやる気のなさに怒りが渦巻いた。
雑務くらいは回せるけれど、基本別の課には依頼出来ない。責任がないものは、ミスも多くなるからだ。
どうしたら、皆のやる気が出るのだろう。
どうしたら、これではいけないのだと自覚して貰えるのだろう。
哀しいかな、いつも個人で動いていたあたしには、各課司令官がいない……このエリュシオンでどう振る舞えば正解なのかが導き出せない。
皆で仕事をするということに、具体的に指示が出来ないのだ。
給湯室――。
「……で、なに。全員分の珈琲を淹れようと?」
女帝の呆れたような声にあたしは頷いた。
エリュシオンでは給湯室はあるが、男女区別なく各自が飲み物を用意する。そのため、自販機から用意するひと、マグカップを置いているひとも居れば、使い捨て用の持ち歩き出来るプラスチックのカップ(これは、イベントでの残りを貰っているのでたくさんある)もあるため、その使い捨て用のカップを貰いに、来客用でお茶出しをよくする女帝に話をしたのだった。
「会議しているの合わせて、約三十人分淹れるの?」
「うん」
「なに、上で押しつけられたの?」
女帝、威嚇するようなしかめっ面。
「そうじゃないの。上がいないから、仕事にやる気がなくてね。前にあたしが怒った時は仕事を始めたんだけれど、その仕事がどうやら上がいないからストップしちゃったみたいで。やることがないから、皆だらだらしてるの」
「はあああ!? こっちは忙しいというのに!」
給湯室に、女帝の声が響き、あたしは慌てて唇に人差し指をたてた。

