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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice

「はい。パラダイスのティラミスと珈琲です。ティラミスはアンケート回収します。美味しいデザートのため、ご協力下さい!!」
すると女帝が言い直した。
「これは、上原さんが是非皆さんに食べさせてあげたいと、自腹を切って用意してくれたものです。美味しいティラミスと珈琲を頂きましたら、是非ご協力下さったパラダイスのシェフにひと言を!」
自腹を切って、という表現に皆がざわめいた。
そこまで安い給料ではないけれど、どんなに安かろうが、ひとから無料で貰えるということに弱いらしい。
あたしだって、シークレットムーンでモニターという名の無料話に、すぐ飛びついたんだし。
女帝と会議室をノックして珈琲とティラミスを持参したら、皆の疲れ切った顔が明るくなったように思えた(特に茂)。
ただひとり、早瀬が複雑そうな顔をしてはいたけれど、あたしの視線を感じたのか、ぱくり、またぱくりと食べた。どうやらお口に合ったらしい。
隆くんのティラミスはとても好評で、糖分でエネルギーをチャージが出来たと、部長や課長にお礼を言われた。
「……ごちそうさん」
口端を吊り上げるように、ワイシャツ姿の早瀬が笑う。
「会議、頑張ってください」
あたしは早瀬に会釈して、女帝と共に会議室から出た。
……ティラミスを食べていると、皆からお礼とアンケート用紙を貰った。
「チ、チーフ。ありがとうございます」
いつもあたしに冷たい野次を飛ばしていた、育成課の藤田くんや水岡さんも、挙動不審にも思えるように、目を泳がせながらのお礼を言われた。
「今度のリクエスト、なにがいい?」
いつも思いつきもしなかったことを口にするあたしに、ふたりは顔を見合わせて、色々と美味しい店を教えてくれた。……まあ、あたしの財布だから遠慮なく高そうなスイーツのご指定だったんだろうけれど。
部下との距離が縮まった気がする。
気づけば、笑いも増えて。
これぞ、スイーツマジック!!
こうやって共通の話題を見つけると、チームワークでやらないといけない仕事もやりやすい。

