この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice

意を決し、このまま調子に乗って言ってみた。
「さあ、食べたら働きましょう。お仕事が一段落しているひとは、段ボール箱に溜まってる要らない書類のシュレッダーと、資料整理お願いします。それと課全体で、なにか面白いイベント考えて貰えないかしら」
しーん。
笑いが消えた。
負けるものか。
このまま勢いで言っちゃえ、柚!
「若いひとのエネルギーが欲しいの。企画が上に通れば、高いケーキ奮発しちゃうけど。どうかな、通った分だけ、皆でスイーツ食べない?」
スイーツマジックにあやかって、口早に威勢良く言っているつもりのあたしの声が、誰が聞いてもわかるほど震えていた。
うわ、まだ無反応?
わざとらしすぎて引いちゃった?
しらけちゃった?
あたし、地雷踏んだ?
だけど――。
「「ケーキを食べるために、皆で考えよう!」」
どっと、社内が湧いた。
……緊張が解けて、腰が砕けそうになっている。
「もし全員企画が通ったら、凄まじい金額になりますけどいいんですか?」
「いいよいいよ」
そうは簡単に企画は通るものじゃないけれど、やる気が出たのなら上々。
「よし、上原チーフを破産させてやろうぜ!!
「全課揃った企画なんて初めてじゃねぇ?」
「スイーツのために頑張るよ!」
……現金な連中。
あたしが今まで我慢して嫌悪感を抱いていた相手は、鬼や悪魔ではなく、とても単純な……どこにでもいる人達だったんだと思うと、笑い声が漏れて。
「……ふふ」
当たり前のことに今さら気づきながら、エリュシオンで笑える自分がいることに、じーんと感動してしまった。
馴れ合う必要はないけれど、最低限のコミュニケーションを、あたし自ら「わかり合えるはずがない」と、放棄していたのかもしれない。
そう女帝の時と同じく。
……話せばわかりあえた。
エリュシオンのタルタロスの中でも。
「……っ」
女帝が淹れてくれた珈琲は、ちょっぴり涙の味がした。

