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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice

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神楽亭は、高級牛しゃぶしゃぶのお店だったらしい。
店内は、落ち着いた琴の曲が流れる、ひっそりとした和の印象。
「いらっしゃいませ」
にこやかな笑顔を浮かべる四十代と思われるピンク色の着物姿の女性給仕さんが、深々とお辞儀をして迎えてくれた。
「何名様ですか?」
「あの、朝霞の名前で予約していた者なんですが……」
あたしが朝霞さんの名前を出したのに、
「お連れ様はもういらっしゃっております。こちらへどうぞ」
早瀬にばかりに笑みを浮かべて、案内を始める。
……ふっ、いいけどね。
あたしは早瀬の背後霊でも地縛霊でも構いませんとも。
ええ、ええ!
「柚、ひじょーーーに、怖い顔だよ」
隣であたしを窺い見ていた裕貴くんがそう言うから、
「あら、そんなことないわよ。ウサ子はいつでも笑顔です」
にこにこにこ。
「ねぇ、ウサ子ってなによ」
小声の女帝の質問に、ひそひそと裕貴くんが答えた。
「ええと……、柚の異名? 二つ名?」
「……随分と弱そうね。だったら『凶悪ウサギ』とかは? 殺人ウサギを『ボーパルバニー』っていうんだけれど、なんならそれにしなさいよ。ボーパルバニーの柚」
「いや……別にあたし、ひと殺さないから! うさぎは可愛いままでいいから!」
「そうだよ、ウサ子はお鼻をひくひくさせて、人参むしゃむしゃしてる白いうさぎなんだよ、返り血浴びてないよ! ……ちなみに姐さんの、現役時代の二つ名は?」
「私? 『殺戮の夜蝶』よ。負けなしだったから」
女帝は誇らしげに言う。
「う、わー」
反応に困ったあたしと、完全に引いている裕貴くんと、同時に口から出てきたのは、抑揚も感嘆もない人ごとの言葉と音で。

