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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
 
 
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 笑い声が絶え間ない、過去の夢を見ていた。

 ピアノが好きでたまらなかった幼い頃の夢。
 親に褒められるのが嬉しくて、うまくなりたいと何時間も練習していた。

 楽しかったはずのピアノが、いつしか親や兄姉の顔色を窺うだけの窮屈なものになってしまっていた学生の頃へと移り、早瀬と出会い、早瀬と共通する〝音楽〟が好きで好きでたまらなくなった頃へと移ろう。

 過度に期待する親と、それに応えることが出来ない……技術的な限界を感じてしまっていた中、彼の言葉は嬉しかったんだ。

――俺、お前が弾くピアノの音が好きで、俺も弾いてみたいんだ、クラシック。

 迷いながらのピアノでも、好きだと言ってくれるひとがいた。たったひとりでもそのひとのためにピアノを続けていきたいと、そう思った。

 思えば初めて第三者から認められた瞬間だった。

 打てば響く……そんな似た音楽センスを持っていたあたし達は、常に互いを尊重し合い、自分にないものを補っていた……とあたしは思っていた。

 音を通してあたしは彼とひとつとなり、誰よりも近くに居た気分になっていたし、家族に対する劣等感を認めて励ましてくれたのも彼で。

 ……だから、彼の手のひらを返したような仕打ちが、悲しくて仕方が無かった。

――有名人の娘だからお前のバージンに価値があった。それがなくなれば、お前に価値はねぇ。性処理でもいいって言うなら、抱いてやるけど?

 彼があたしと一緒に居たのは、あたしという人間を見ていてくれたわけではなく、有名な音楽家の娘であり処女であったからという理由だったことに。

 あたしは、数多居る女の中でも、ヤリやすい女だったんだね。
 なにひとつ疑うことなく、彼に心を開いていた。
 ……それが処女を奪うための作戦だと知らずに。

 思い返せば、あたしは自分のことを彼に話したけれど、彼のことは一切聞いていない。父親は既に亡くなっているということくらいで。

 最初から、線は引かれていたんだ。

 ねぇ――。

 あなたが昔語っていた音楽への愛情も、嘘だったの?
 嘘だったのなら、なぜあなたは今、音楽家をしているの?
 
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