この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice

「……解除条件はなんだ。上原の拉致か」
「そうだ」
朝霞さんは頷いた。
「どう解除する」
「監視役が上原拉致を確認して連絡したら、連絡先が解除する」
「お前はその連絡先に、連絡出来ないのか?」
「え?」
「仮に、想定外のことが起こり、たとえばお前も監視役も拉致出来ない状態であると告げたら、中断出来るか?」
「ありえない。監視役は単数ではない。皆が拉致不可能と思わせないといけないんだぞ。骨折程度では、見せしめに笠井が爆発されるだけだ」
真理絵さんの声は笑い声になって、最早人間の言葉ではなく。
うひゃひゃひゃとか、い゛い゛い゛とか、壊れかけている。
早く救ってあげたいのに、下手に手出しが出来ないのがもどかしくて。
「骨折程度でなければいいわけだな?」
超然と笑う早瀬に、怪訝な顔をして朝霞さんが尋ねる。
「なぜそう易々と言える? わかっているのか、上原の敵の正体を」
「〝我らは永久の闇より汝を求めん〟」
それは前、赤いBMWで棗くんが言っていた呪文。
明らかに朝霞さんは動揺した。
「ちっ。外が動き出したな。……朝霞、俺達と来るか?」
「いや、俺にはやることがある」
朝霞さんはいつもの優しい笑みを浮かべてあたしを見た。
「なにがあっても、生きろよ。上原」
「朝霞さん、一緒に……」
今生の別れのように感じてしまったあたしに、朝霞さんは頭を横に振った。
「俺は笠井を助ける」
朝霞さんは、いつだって仲間を見捨てないひとなんだ。
だから皆、朝霞さんを慕ったんだ。
朝霞さんならなんとかしてくれると。
「じゃあ真理絵さんも一緒に逃げましょう」
「俺の監視として笠井は利用されている。笠井だけじゃない。他の社員も〝飼育〟されている」
「な!」
飼育ってなによ!
家畜のように扱っているってこと!?

