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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice

……あたしが駆け下りるより早いってなに。
あたしはカンガルーの袋に入っているか、親コアラにおんぶされているような気分になってしまった。
少なくとも、制限された時間内、階段を王子様と駆け下りるシンデレラの気分には到底なれなくて。
「須王、下から来る!」
「須王さん、後ろからも来たよ」
「うわ、沢山の足音よ!?」
物騒この上なく、完全挟み撃ち。
横は壁と手すりだけ。
あたしの頭の中、!と?だけ。
さあ、どうする!?
しかし焦っているのは、あたしと女帝と裕貴くんくらいなもので。
「棗、お前イーグル持ってるな」
「さすがね、でもあまり使いたくなかったんだけれど」
棗くんが帯から取り出したのは、銀色の大きな銃。
「棗くんまで!? なによ、それ!」
パニックになるあたしに棗くんは嬉しそうに言う。
「これ? デザートイーグルよ」
名前聞いてないから!
知らないから!
「うおおお、これがあの有名なデザートイーグル!?」
しかし裕貴くんが食いついた。
あたしには、食いつく要素がわからない。
あ、スイーツと勘違いしているとか!?
「須王さんの銃は、なんなの?」
「須王のは、Five-seven(ファイブセブン)よ。クラス3のボディアーマーを貫通できるの。上原サンはどう? どちらが好き?」
どの程度のボディーアーマーなのかわからないし、仮に凄くても怖いだけだから! 怖い銃に違いはないから!
なんで「ご飯にする? お風呂にする?」のノリで聞いてくるのよ、棗くん!
「ノーコメントで。敵が来ているのに、なんでこんなにほのぼのしてるの!?」
音が上と下から聞こえ、今度は似たような黒服の姿が視界に入る。
そんな時早瀬は、棗くんとの間に裕貴くんと女帝を入れて、上からの黒服達と距離を縮めるから、早瀬の腕の中であたしも縮み上がる。
いや、別に裕貴くんや女帝を盾にしようとか、そんなの全く思ってないよ?
だけど、怖がっているのに、さらに近づくこの理不尽さに泣けてきて。

