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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice

その時、一本奥の道から、プップーとクラクションの音が聞こえた。
「撒いていて、遅くなってすまん。乗れ!」
走り出したあたし達。
しかし横から飛び出たのは、黒いボックスカー。
棗くんが銃で前タイヤを狙い、早瀬が後ろタイヤをパンクさせる。
がっくんと車体が下がった隙に皆が左右に分かれて走る。
……早瀬は足が速く、絶対自分で走っていた方が足手まといになっていた。
出てきた黒服。
避ける早瀬は、肘鉄で喉元を一撃。
それでも食らいつく男の頭上に、あたしが手にしている靴でガツンガツンと叩く。勿論踵で。
奥義『柚キツツキ』! 食らえ!
ガツンガツンガツン!
男がのびた。
「お前もやるじゃないか、凶暴」
「どの口がいうのよ」
「あはは」
早瀬は笑い声を響かせながら、上で屈んだ男の背を踏み台にすると、その場で軽やかに跳ねて、ボックスカーのボンネットから天井にとあっという間に飛び乗った。
あたしを担いだまま軽やかに夜空に舞う、これこそが本当に夜蝶ではないかとぼんやりと思うあたしは、真理絵さんを連れて朝霞さんがビルから出てきたのを見た。
夜空から朝霞さんと目が合う。
声を上げて仲間だと思われたら、真理絵さんがまた大変になる。
朝霞さんがなんとも言えない哀しげな顔をしたから、あたしは……コメカミに斜めに手をあて敬礼してしまった。
ありがとう、と。
それと、やはり朝霞さんはあたしの尊敬する上司だから。
反対側に降り立ってしまえば、黒いボックスカーが邪魔して朝霞さんは見えなくなった。
……きっとすぐに会える気がした。
その時は敵なのか味方なのか、わからないけれど――。

